電気計測超精密研究所ではどのように校正しているか?
1996年頃の私はアナログメータ、3桁半の小型マルチメータぐらいしか持っておらず、校正など
は興味はありませんでした。しかし、3桁半のどこまで正しいのか?4桁半なら?5桁半なら?と
どんどんステップアップし、各種標準器を多数使いこなし8桁半を校正する状況まできています。
紙・本だけの理論上の校正理論は一般向けにもありますが、実践の技能を学ぶところは簡単
にはありませんから、こちらの技術顧問の先生(概要)とともに多数実践し製作や簡単な失敗も
あります。校正するだけなら高い確度の標準器があれば可能ではありますが、何か不都合が
あった場合に実際に校正出来ているのか?の検証が出来る能力・技術が必要になります。
株式会社等では無い個人の電気計測超精密研究所ではどのように校正しているか??
ごく一部を簡単に説明しますと、直流電圧・抵抗・電流ではフルーク720Aを複数台使用します。
フルーク720Aは外部標準無しで自己校正・ゼロエラーに調整可能ですから±0.1ppm〜±数十
ppmの比確度で超高確度で校正が出来ます。この校正レベルは一般的には最高峰クラスです。
フルーク720Aは直流分圧器ですが直流抵抗比なども上記同様の確度レベルで校正が可能です。
フルーク720Aは自己校正後、比誤差が±0.1ppm以内であるかを確認するため1.099999X
設定で1.1端子にDC11Vを入力しHP3458Aを複数台使用してDC11.000000V表示に
調整しフルーク720Aの分圧値設定を変化し比誤差が±0.1ppm以内であるかを確認します。
校正というより動作確認を実施しております。(HP3458Aの10分安定度が±0.1ppmのため)
交流はFLUKE 5790A交流の標準器とHP3458A等複数台使用して誤差がどの程度あるか?
各代表値で検証しております。ここで「複数台使用」が重要な項目です。
標準器1台ではそれが壊れていても・微妙な校正不良等の判断のしようが無いですね。
標準器2台ですと、どちらかが壊れている場合はどちらが正しいかわからない場合があります。
電気計測超精密研究所では最低限、標準器3台以上で正しい校正か?を確認しており、さらに
別の標準器でも(校正確度は上記標準器より多少劣る場合があるが確認レベル)再確認しており
校正レベルでの校正不都合を出来るだけ少なくなるように考慮しております。
校正で使用する校正専用特殊リード線も品質が非常に重要で1組数万円品を複数本使用します。
トレーサビリティで各機能は研究・確認済みですので、現状で最上位の基準となるDC10V
10kΩのみの校正値確度が重要になりますが、これもトレーサビリティを複数先使用すること
で標準器故障や間違いなどのリスクを減らしています。実際はこのような状況から電気計測超
精密研究所ではトレーサビリティは複数先を記載しており、どのトレース先を使用したかの明記は
ありません。各校正値は公称確度や実力確度などを考慮して決定しております。
電気計測超精密研究所では公認のJCSSなどの書類だけの認定取得等は目標としていません。
実力の校正確度・技術には関係が無く、標準器の認定確度を公示では意味が無いためです。
計測技術・知識・豊富な経験など無い、完全な素人でも校正方法・校正機器操作方法を教われば
誰でも出来る内容も多いことは事実ですが例えばフルーク5730A(現状で最高確度数ppm〜
最高峰クラスのマルチ標準器)を使って校正した場合、校正・測定条件が正しく・良ければそれなり
の確度で校正は可能ではあります。例えば総合計測器製造メーカH社では現状で各標準器をその
各メーカに校正に出して問題無ければそれで良しとして次回校正まで校正に使用するようです。
例えば何か問題がある、問題が実はあるがわからない?などでオカシイ?状態となった場合に
計測技術・能力が無いとそこから進みません。そもそも校正不良になっていることがわからない
上記の校正不良などのことが実際にあるのか??具体的な下記の実例を見ると良くわかります。
大手計測器製造メーカY社 5桁半マルチメータ 2013年に販売終了
仕様 DCV 2000mV 固定レンジ 最大1999.99mV 入力抵抗1GΩ以上
24時間確度 ±(読み45ppm+3d) 校正レベルでの不都合実例
アドバンテストR6161標準器2台直列にして(±2.399998の分解能範囲で調整可能)出力値を
調整をし測定値を+1999.99mV表示にします。+−を反転すると−1999.90mV表示?
10d減った??こんなに直線性が悪いのか??初期のモデルでほぼ全てこの不都合が出る!?
(上記−1999.9@mV時の@の表示値は、一例であって多少数値は前後します)
一般的な校正業者なら仕様範囲外の大きな誤差では無いため、そのままOKとなると思います。
しかし、こちらではオカシイ?と思いまずアドバンテストR6161標準器が壊れたか?
アドバンテスト R6161単独・直列で、別の8桁半測定器で確認してみると問題は無い。
標準器の設定はそのままで、次にバナナ端子の+−を入れ替えるとやはり上記の現象が出る。
つまり、−発生時だけ標準器の電圧が約−2Vに対して約50ppm下がることがわかりました。
結論としては入力抵抗1GΩ以上のはずが100kΩ前後!!に低下しているため、約−2V
入力時に−0.02mA前後も電流が流れていました。なお、入力抵抗10MΩ固定の20Vレンジ
以上にしますと計算値である−0.0002mAとなります。(20Vレンジ以上は正常値)
アドバンテストR6161の出力抵抗は非常に小さいため校正レベルでの誤差(−10d:2Vに対して
約−50ppm相当)しか無いですが、出力抵抗の大きい直流電圧発生標準器、例えば横河電機
標準電池 2749などでは仮に直流発生電圧出力抵抗1kΩ、直流測定電圧入力抵抗100kΩと
した場合は誤差約−1%レベルの非常に深刻な不都合になり、標準電池は電流は取れない仕様
のため標準電池にも不都合が出るレベルです。デジタル機器では無くアナログメータレベルです。
上記の実例では直流約−100mV〜−2000mVの範囲内で入力抵抗が1GΩから100kΩ前後
まで−2000mVに近くなるほど入力抵抗が低下します。−3000mVでは入力保護抵抗値です。
このようなのは製造・設計不良品であるからY社に問い合わせた。不都合の認識はあるようだが
関係ない?ような返事で有償修理なら内部部品を交換するとの当時の回答であったと記憶です。
誤差約−1%レベルの一例は極端な例であるが実現は容易である。
価格1000円前後の激安3桁半マルチメータの仕様誤差0.5%より、数万円する5桁半の方が
測定確度が悪いことになります。上記の不都合は一般のユーザ、合否判定のみの校正業者等
ではわかりにくい不都合である。電気計測超精密研究所では最良レンジの直線性試験を実施
しているため、今回このような隠れた問題がわかりました。この問題は一般的なユーザーでは
この不都合を知らない場合、問題の発見をすることが難しいでしょうから非公開は困ったものです。
通常使用レベルでの不都合実例 A 現場計測器 デジタル絶縁抵抗計の校正不良?
電気計測超精密研究所で製造年も新しく新品同様品の校正済品販売の約1年後、安価な他社の
再校正で校正不良と出ると電気計測超精密研究所に再校正依頼がありました。
電気計測超精密研究所での確度±0.5%以下の高確度高標準抵抗器を使い、まったく問題なし!
安価な他社での再校正不良データを見ると多少校正知識があれば校正標準器か校正方法・他で
オカシイ点がわかるレベルの話です。125V,250V,1000Vレンジは校正合格だが500Vレンジ
のみ高抵抗で不合格となっている。まず使っている標準器がオカシイのか?電圧係数により高抵
抗値が変化することもわからない素人が作った標準器?では無く、確度±1%だがメーカ製造品で
ある。500Vレンジのみ高抵抗での測定値が減っているため校正時になんらかの絶縁不良となり
リード線間でリークしているということがわかりました。実際に赤黒リードを束ねて握ると500MΩ
前後まで抵抗値が減少していました。つまりデジタル絶縁抵抗計本体は正常でリード線の絶縁
不良であった。こちらに在庫の良好な同等テストリードを付けて返却となりました。
電気計測超精密研究所で校正時は高抵抗専用リード線または、高抵抗試験専用標準器を使用し
測定リード線間は物理的に接触しない方法で校正するか、測定リード線間の絶縁抵抗が良好な
シールドリード線を使用しており余分な誤差が入らないように十分注意して校正を実施しています。
ここでの問題点は校正方法・リード線の取り扱いに問題があったわけです。校正時の注意点や
そもそも何をやっているかがわかっていない?ためにこのような結果を平然と出してきます。
校正関連の専門的な知識が全くない事務的な校正マニュアルで校正?を実施するとこのような
オカシナことになります。こちらの技術顧問の先生(概要)の話では素人の測定結果と専門家の
測定結果では同じ測定値が出たとしても「測定値の重み」が違うと言っておられました。
安価な他社での再校正不良は校正品質が悪いために良品を不良と判定してしてしまい、本来
不要な修理費用、新規購入費用などが発生しているのが問題となっており困ったものです。
通常使用レベルでの不都合実例 B 現場計測器 デジタル絶縁抵抗計の校正不良?
他社での再校正で校正不良と出る。電気計測超精密研究所に再校正依頼がありました。
電気計測超精密研究所での確度±0.5%以下の高確度高標準抵抗器を使い、問題なし!
他社での再校正不良データを見ると仕様確度範囲外に誤差が少しだが出ている状況であった。
標準器は確度±1%で一流メーカ製造品である。しかし、校正対象品も確度±2%と良いため
標準器の確度±1%を考慮すると、このようにわずかな仕様外れは合格になっている場合もある。
計算していみると標準器の確度±1%を完全に無視し0%とした場合は仕様外れは0.5%程度
になっている。しかし、標準器の確度±1%を考慮すればさらに1%許容した場合は合格となる。
標準器の確度を無視出来るほど良ければ問題無いが、標準器の誤差無しでの合否判定??
このように標準器確度と校正対象の確度が2倍ぐらいですと合否判定自体が難しい場合がある。
電気計測超精密研究所では標準器側の誤差により校正対象品で不合格とならないように最低限
特別に超高確度な場合を除き、標準器の確度は校正依頼品より3倍以上良い環境で校正です。
校正レベルでの不都合実例としては他にもいろいろありますが一般的に使用するだけなら
あまり問題とならない場合も多くあります。これらはキリがありませんが校正品質の問題です。
下記の校正では、よくある素人の校正方法で余分な誤差が入る不適切?な校正を実際に
どのような誤差が入るか?どれぐらいオカシイ?かを実際に実施してみました。
実例A:電流校正にて3台以上測定器・発生器を直列に接続すると・・・・・?
直流電流では標準発生器〜校正対象測定器〜標準測定器と3台直列に接続すると微少電流
校正時は校正対象測定器各端子からの漏洩電流により、標準発生器・標準測定器が正しい
校正電流の場合でも校正対象測定器は適切に校正出来ていない場合があります。
交流電流では上記と同様に校正しますとコンデンサ分がさらに加わり、マイクロアンペアの領域
ではかなりの誤差が出ます。基本的には交流も直流も、標準器〜校正対象機器のみ接続し
LO(COM)端子を共通になるようにする必要があります。HP3458A、アドバンテストR6581
8桁半DMM6台を直列にして実際に実施してみました。(測定確度±0.09%、±0.05%)
なお、各単独でNF1520からの測定値は1kHz、すべて99.98〜100.02uA以内です。
HI側からLOまでのすべて直列時の交流電流1kHz 各指示値(uA)
100.04〜100.23〜100.01〜99.97〜100.18〜100.10
上記で一番マトモな測定値は3番目の100.01ですが単独での測定値は99.99ですので
たまたま、基準値に近いだけと思われます。上記と同様に多数直列接続の直流電流測定でも
マイクロアンペア以下のの領域では別の誤差が入り正しい測定値にならない場合があります。
実例B:高抵抗校正にて1MΩステップ以上が確度±0.2%の可変抵抗器を標準器に・・・・・?
高抵抗(ここでは1MΩ以上とします)校正では測定する電圧(流す電流)により電圧係数から
抵抗値が変化する場合がありますので、ノイズ対策(完全なシールド)、リード線からの漏洩電流
などにも注意して校正する必要があります。例えば10MΩ測定確度±0.04%の測定器を
校正する場合は悪くとも±0.01%より良い確度・安定度のある高抵抗標準器が必要ですから
ここでは、電圧係数が大きい?安定度不明?な確度±0.2%の高抵抗器は出番ではありません。
もし、10MΩ確度±0.01%レベルの標準器があった場合でも通常のテストリードを接続しますと
線間の絶縁抵抗が確度±0.01%に影響しないためには200GΩ以上必要であり同時に完全な
ノイズ・シールド対策も重要です。ノイズ・シールド対策が不完全ですと標準器が安定していても
測定値がバラツクなど不安定になり、校正が出来ません。正しい校正方法・接続方法が必要です。
電気計測超精密研究所では物理的にリード線間が接触しない/非常に短いリード線にするなど
十分に工夫をして校正安定度を向上しています。
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